日記

 新宿へ向かう電車の中、木村カエラ似の女性を見た。目元と髪型が似ていたのだが、「似てるなあ」と思いながら僕はぼんやりと眺めたり眺めなかったりしているうちにいつの間にか眠ってしまっていた。新宿に着く直前で目が覚め、ある種の錯覚を覚えた。目の前にいるのは木村カエラじゃないのか、と。あれは木村カエラだ、きっとそうに違いない。「今週のロックフジヤマ観ました」と思わず声を掛けたくなったが、ここは電車の中である。そういうことは降車してからにしよう。新宿に着くと僕の目は完全に覚め、対角線上に座っているのは木村カエラじゃないことをじんわりと認識してきた。目元と髪型しか似ていない。声を掛けたら大変なことになっていた。危ない危ない。
 今日は『デスノート』を観にきたのだ。木村カエラ似の女性に現を抜かしている暇はない。西口の金券ショップで1300円、映画入場券を購入した。映画開始までしばらく時間があるが、何処の映画館で上映するのか確認しておこう、と僕は歌舞伎町へと向かった。新宿コマ劇場前は凄まじい人だかり。土曜日なのだから当然といえば当然だが、それにしても今日は映画館の客が多い。『タイヨウのウタ』だかそんな感じのつまらなそうな映画にも大勢のカップルが列を成している。チケット購入カウンターを目にして僕は気付いた、今日は1日であると。毎月1日は映画1000円の日なのである。金券ショップで1300円の割引チケットを買って、ほくほくしていた自分が情けない。僕は人よりも300円高く金を出してしまっていたのだ。このチケットは1日以外の日に使おう、そう決心して僕は1000円で新たなチケットを購入した。もちろん『デスノート』ではない。『ウルトラヴァイオレット』か『オーメン』かで悩んだ挙げ句、後者のチケットを購入してしまった。本来ホラー映画は好きではないのだが、『オーメン』といえば2年前、酒徳ごうわく監督主催のバカ映画イベントで題材にされた、何ともお間抜けな映画というイメージがあったので思わずこちらを選んでしまった。
 『オーメン』は空いてるのかと思いきや、意外にも満員御礼なほどに場内は賑わっていた。何回かビクッとする場面はあったものの、首がズッパリと切れちゃうシーンや、地獄の使者を車で思いっきり轢いてしまうシーン、ダミアンが母親を落としちゃうシーン等、とても笑わせていただきました。1000円でこれなら十分満足感を得られる内容であった。
 時間は午後6時。父親から「夕ご飯は要るのか?」というメールに「要らない」と返信したところ「そうか。気をつけて帰ってこいな」という何に気をつけて良いものかわからないメールが返ってきた。それを読みながら僕はエロDVDショップへと入っていった。前から欲しいと思っていたものがなかったので、すぐに出てきてしまった。といっても入店してから既に1時間経っていた。そろそろお腹も空いてきた。僕は最近出来たと思しきインドカレー屋に入った。ほうれん草とチーズのカレーを注文し、そいつを食した。値段も味もそれなりで、お店も新しい故に綺麗で好感触であった。しかしながらトイレだけはトイレの消臭元があるにも関わらずインドで嗅いだ匂いと同じ匂いがしたので、笑ってしまった。
 腹を満たした僕は、やはりというかゴールデン街へと向かった。目指すはメイドバーである。ドアを開けると「いらっしゃいませ、ご主人様」と迎えてくれる前回と変わらない雰囲気に嬉しくなる。メイドさん2人は前回と違ったので、違う話をしたのだが。僕の後に来たお客さんに、ゴールデン街歴30年という割と年輩のおじさん2人がやってきた。午後3時から飲んでいるらしく、かなり饒舌であった。アニメや特撮には全く以って疎いらしいが、とりとめも無い話が面白い。穿った見方をして面白いといっても良いのだが、かなり良い感じに出来上がったおじさん2人だったので、それはもうそれだけで面白いと言って良いだろう。2時間程度談笑した後、僕は店を後にした。そしてその後、一昨日友人3人と赴いた日本のロックを流すバーへと足を運んだ。定員約8人の店内はほぼ満員。それでも詰めて貰って、座ることが出来た。お客さんはタトゥー有り、ゴールデン街初体験の方ありで、バラエティに富んでいた。そのゴールデン街初体験の男女に隣り合わせたので、ちょこちょこと話を交わした。女性は僕の1つ下、男性は未だ人に成っておらず、と聞いた時には打ちひしがれそうになったが、そんなことでクヨクヨしていてはここではやっていけない、と奮起させて会話に臨んだ。何を話したのかはよく覚えてはいないのだが、一度トイレに籠もり、インドカレーを戻したので結構飲んでいたのだろう。それでもそこのマスターとママさんは気前の良い方なので、唐揚げやピザを振舞ってくれた。油ものじゃなければ喜んで食べたんだけど、隣の男女に勧めてしまった…ごめんなさい。終電の時間も近いということで店を後にした。しかし、どういうわけか気づくと目指す駅を過ぎていたのでタクシーで帰宅することになってしまった。先週の金曜日から考えると2日に1回タクシーで帰ってることになるな…しかも全部違う駅から。社会人って凄い。