不味い! (新潮文庫)

不味い! (新潮文庫)

出版されて2週間足らずで重版がかかる本。隠れた名著になるのではないかと予想。隠れてはいないか。
世に美味い物を美味そうに紹介するエッセイやグルメ本は多いが、不味い物を取り上げる本は少ない。この本は世の不味い物を紹介して、世の料理人、経営者にもっと美味い物を作って下さいというメッセージを込めたものである。この小泉武夫さんという方は東京農業大学の教授である。著書には納豆に関するものや美味い物を紹介する本が多々ある。だからなのだろうか味の描写が巧い。不味い物を紹介する時、まず美味い物を出し、それと比較して述べるから、何ともその美味い物が美味そうに思えて、読んでいると腹が減ってくる。
 紹介されている不味いものは、所謂不味い物である「臭い物」「虫」だけではない。「観光地のメシ」だとか「大阪のホテルの水」だとかちょっと工夫すれば美味くなるものが多い。中でも面白かったのはスウェーデンの世界一臭い缶詰シュール・ストレミング」の項であった。臭気を計測する機器「アラバスター」(ワンピースでもこんな地名があったな)で臭いを計ると、納豆が352、ふなずしが486、焼きたてのくさやが1267、キビャック(海燕を、内臓を抜き取ったアザラシの腹の中で発酵させたもの)1370、ホンオ・フェ(韓国のエイの発酵食品)2230。これらに対し、シュール・ストレミングの数値は8070である。全く想像が付かない。一体どれほど臭いのだろう。納豆でさえ臭いのにその比ではない。ここまでくると匂ってみたくなる。しかしながら日本には輸入されてはいない。輸送中に缶が破裂でもしたらテロになってしまう。というかこの缶詰で嫌がらせをする事件がスウェーデンで起こったりはしてないのだろうか?
 そしてもう一つ驚いたのが、くさやの臭いの強さである。キビャックとかいう海燕を、内臓を抜き取ったアザラシの腹の中で発酵させた、いかにも臭いであろうものと数値があまり変わらないなんて。僕はくさやを食べたことも近くで匂ったこともない。くさやってそんなに臭かったのか。よくお笑い番組の罰ゲームに、ジューサーミキサーに納豆と牛乳とくさやを入れて、その液体を飲ませるというものがあるが、あれは相当キツいのだろうな。