日記

 東京国際ファンタスティック映画祭に行ってきた。友人と。といっても僕等が行ったのはメインのオールナイト上映ではなく、「デジタルショートアワード600秒」の審査会にである。「デジタルショートアワード600秒」とは、600秒という短いような長いような時間の中で「笑い」「泣き」「驚き」。いずれかのテーマの映像を撮り、編集し競い合う映像コンペティションである。そしてその「笑い」部門の最終審査が新宿ミラノ座であったのである。
 何故今回、僕等がわざわざ新宿まで足を運んだのかというと、昨年の「デジタルショートアワード600秒」に挑戦したからだ。しかも「笑い」部門で。しかしそれだけでは新宿まで行こうとは思わない。僕等がわざわざ赴いた最大の要因は招待券が届いたからだ。その招待券に同封されていた紙にはこう書いてあった。

謹啓
 初秋の候、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 この度は、東京国際ファンタスティック映画祭デジタルショートアワード[600秒」に応募いただきまして、ありがとうございました。
 さて、いよいよ10月13日より東京国際ファンタスティック映画祭が開催されます。つきましては、事務局よりデジタルショートアワード「600秒」本線の招待券を送付いたします。
 ご来場、お待ちしております。よろしくお願いいたします。
                                       謹白


 あらゆる間違いが見受けられる。まず僕は部屋に引き籠もり、季節感の無い格好でパソコンの前にいるという状態が常である。つまり「ご清祥」ではないのだ。しかしながらそこはまあ良い。相手にはこの僕の状況を窺い知ることは出来ないのだから。それにしてもだ。最初の「600秒」のカギカッコが違うというのはとてつもなく遣る瀬無い。バイトに打たせた文面なのだろうか?だが、これもまた小さなミスなのである。最大のミスは、僕等は今年「デジタルショートアワード600秒」に作品を提出してはいないということなのである。それなのに招待券が送られてきたというのはどういうことなのだろう?過去に応募した実績のある者には毎年招待券が届くのだろうか?それならば大変に嬉しい。それでも、よくよく考えてみるとこれは背筋も凍ってしまうようなことのようにも思える。これから毎年毎年招待券が送られてくるのである。ということは僕が死ぬまで。というか、ご清祥であることを知らなかったのと同様に、僕が死んでも気付かないまま永遠に、人類が文明を失うまで招待券が送られてくるのではないか?という危惧である。死して尚、自分の意思が働かぬ次元で自分宛てに招待券が……そしてその招待券で行ける場所は……みたいな。まるでホラーじゃないか!僕は怖いのが嫌いなんだ。でも自分は死んでるから良いか。というか凄く嬉しいので毎年招待券を送ってきて欲しいです。お願いします。
 それで審査会はどうだったかいうと。まず映画館が凄い。ミラノ座は正に日本を代表する立派な映画館なのであった。席数も1000か、それ以上はある。入場する時に貰ったのは映画祭のスケジュールが載った薄いパンフとこれから発売するマトリックスのゲームの体験版のようなDVD。そこには「ATARI」のロゴ。何だかそれを見るだけでニヤけてくる。「ATARI」のロゴデザインが結構好きなのだ。あと、普段の番組以外でタモリを見るとニヤけてくる。理由はよくわからないが嬉しくなる。だからコーヒーのレインボーのCMもニヤけながら観ている。
 館内が暗転し、審査会は始まった。まずは映画祭プロデューサーのいとうせいこうから趣旨説明と挨拶。間近でいとうせいこうが見れるとは。その距離15m。これもまた、何だか嬉しい。そして最終審査まで残ったショートフィルムを制作した監督4人にいとうせいこうが軽くインタビューをして上映が始まった。

1作目『討ち入りだョ!全員集合』 
2作目『空想癖の女』
3作目『フルフェイス家族』
4作目『解けない結び目』

 まず1作目の画面の美しさ、音声の滑らかさに驚いた。かなり上等な機材を使っているか、相当の手間を掛けて映像と音声の処理を手作業でしているのではないか。忠臣蔵を現代風に描いた作品。30分の尺で作ったらもっと素晴らしかったと思う。かなり上からの批評。漫画に例えると『ミスターフルスイング』のような。これは厭くまで僕の感覚。
 続いて2作目。映像や音声は1作目と比べてしまうと少し荒いがそれは問題ではない。妄想の酷いOLの誕生日の話。10分で起承転結がちゃんとあってテンポが良かった。少し物足りない感じはあったけど。これまた相当上からの批評。漫画に例えると『日本一の男の魂』のような。そんな感じがしたんです。
 3作目。映像や音声は飛んでもなく荒い。しかしながら、これはもうタイトルからして何かを匂わしてくれていた。勿論内容もそうであった。久しぶりに帰郷した主人公を駅まで車で迎えにきた家族。父・母・妹。しかしその頭にはフルフェイスのヘルメットが。車から降りてきた父は主人公にもヘルメットを被るように迫る。その演技はとてつもなく稚拙。根負けして被る主人公。帰宅してからも家族はヘルメットを被ったまま生活している。つまり普段の生活をヘルメットのまま送っているのだ。そんなショートフィルム。最終的にひたすら畑や岩に家族全員で頭をガンゴン打ち付ける画があるのだが、そこだけを5分やっていても良かったかも知れない。思わず噴き出してしまうところが何回かあった。そして出演者が本物の家族(監督=主人公の家族)というのもまた素晴らしい。思春期真っ盛りであろう妹がどんな顔をしてやってくれていたのだろうか。その背景を想像するだけで笑いが出る。漫画に例えると『おしゃれ手帖』だろうか。
 4作目。ほのぼのとして、クスリと笑えるシーンが何カットかある。非常に安定した映像。皮肉めいたメッセージが込められている、はず。テレ東の深夜辺りにやっても良いと思う。漫画に例えると、まんがタイムとかにある感じのやつ。もうわかりません。
 で、「笑い」部門のグランプリは4作目の『解けない結び目』となった。それはまあ順当な結果であった。しかしどうやら審査員は『フルフェイス家族』が気に入ったみたいだ。

 審査をしている間に、前年度総合グランプリの作品の金を掛けて撮り直したヴァージョンを上映する時間があった。女優さんが綺麗。あと、やっぱりクオリティ高い。内容はありきたりっちゃあありきたり。昨年出品分を観てみたかった。
 その後、特別ゲストの手塚眞氏が登壇。いとうせいこうとのトーク。映画を撮る心構えの話をしてくれた。話し方や仕草からインテリな感じが窺えて好感が持てた。そして彼もまたこの日の上映に合わせて600秒で映像を作ってきたと言う。予算千円のホラーとのこと。早速上映が始まった。
 主演松嶋初音。この時点で普通なら千円は超えているだろうがそこは人間と人間の繋がりが成せる業だ。拾った千円には血のようなものが付着していた。家に持ち帰ったその千円をテーブルに置いて、就寝の準備をしている初音。ふとさっきテーブルに置いた千円を見るとさっきよりも血が滲んでいる。みたいな感じで話は進んでいく。キュンキュンと心臓に迫る効果音と恐怖を膨らませてくれるカメラワークの妙。流石にプロのやることは違う。これを3時間で作ったなんて。そして最も驚くべきは、編集を一切していないということだ。コンテの時系列の通りにシーンを順番に撮っていくだけで作られた映画だという。ますますプロって凄い。
 全てのプログラムが終わった。映画館のロビーには前年度総合グランプリ作品の綺麗な女優さんがいた。近くで見るともっと綺麗だ。そして記者会見をやるような場所にはいとうせいこう手塚眞氏とクリエーターが。手軽な異次元といった感じだ。無料でこれだけ楽しめるとは。想像以上だった。
 こういった自主映画のイベントに来るとどうしてもまた自分でショートフィルムを撮りたくなる。撮りたいなあ。もし撮るとしたら今度は人が沢山出てくるやつが良いなあ。というか去年出品したやつがあまりにも人が出なさ過ぎたなあ。さっき予告編観て懐かしくなったなあ。良いなあ。撮りたいなあ。
 去年の一次審査通過作品は「600秒」のサイトでまだ予告が観られるのでお暇な方は是非。僕等のやつもあります。最後の方です。
 今わかった。クイズ番組やらいいともの最後にちょろっとだけ来てドラマの宣伝する役者の気持ちがちょっとわかった。なるほど。自分の携わったものって皆に観て貰いたいよね。