日記

 サークルの合宿に行ってきた。場末の温泉街でありながら僕等の泊まった旅館は200人以上宿泊可能な雰囲気の良い老舗だった。観光バスを降りて部屋に各自荷物を運び入れる。長時間の移動で疲れていたのか僕は部屋に着くとすぐに眠ってしまっていた。6人部屋の僕以外の5人は風呂に行ったようだった。目が覚めて部屋を見渡したところまだ5人は風呂から帰ってきていない。何をしているのだろう。無性に気になってきたので風呂に入れるよう、タオルを持って部屋を出た。ロビー手前の廊下で5人の内の1人(仮にA君としておこう)がこちらに向かって歩いてきた。良かった、僕を追いて何処か宿の外へ遊びに行ってしまったのかと思った。「オーイ!」。そう言って手を振るとA君は浴衣姿で僕に向かって突っ込んできた。これがタックルというやつだろうか。「何するんだ」。そんなことを言う時間なんて無い。A君が僕のベルトを外し、ズボンを無理矢理脱がそうとしている。僕はいつものようにふざけているのだと思い、ヘラヘラと笑っていた。A君はズボンを脱がすとパンツも脱がそうとした。爪を立てて一心不乱にA君はパンツを脱がせた。そこでA君は僕と目を合わせた。その表情は今までに見たことのないものであった。顔の筋肉という筋肉があらぬ方向にビクビクと痙攣している。目はアンダーテイカーよろしく白目を剥いている。嗚呼これはおふざけなんかじゃないんだな。僕はようやく身の危険を感じ始めた。立ち上がって逃げようと腕に力を込め、腰を少し上げるとA君は僕の両腿をグッと押さえつけてきた。その力に逆らうことが出来ずに尻餅をついてしまった。その刹那、A君の手が腿から局部に上ってきた。僕の局部をムギュッと力強く握ると綱引きの要領でグイグイと後ろに引っ張り出した。余りの痛みに声も出せない。千切れた。人間の身体とはこれ程までに脆いものなのか。嗚呼これで僕は後世に子孫を残すことは出来ない。何とも言えない無常感に襲われて涙がポツリポツリと頬を伝う。畜生畜生。A君を睨みつけると彼は両の手を血に染めて「ワハハ」と声を上げて笑っている。何が可笑しいんだ。人の局部を引き千切っておいてどうしてそこまで楽しそうに笑っていられるんだ。何が何だかわからない。A君の髪を鷲掴みにして顔を僕の方へ近づけた。まだA君はヘラヘラと笑っている。その顔が嫌らしく憎らしく僕は彼の顔にビンタを張った。A君の悪魔の形相はさっきにも増して酷くなっている。顔の痙攣、三白目、更に涎がドバドバジュルジュル出ている。思わず目を逸らしてしまった。目線の行き場を失った僕は思わずA君の手に目をやった。そこには引き千切られた僕の・・・・・・アレ?何だこれは?ホルモンか?アレ?よく見るとまだ僕の股間には以前と変わらずナニが付いているぞ!血に塗れて見えなかった、余りの痛みに見えていなかった、怖くて見れなかった。だけど付いてる。良かった。でもA君の持っているものは?嗚呼!皮だ!思春期からの数年間持て余していた皮だよ!ホッと胸を撫で下ろすとここで初めてA君が口を開いた。しかしA君の声じゃない、話し方じゃない。エクソシストの悪魔にとり憑かれた少女のような声で言った。「この宿の裏手に地蔵を祀る祠があるのを知っているか?」今日初めて来た土地の祠事情を知る由も無い。僕はブンブンと首を横に振った。「知らないのか?まあ良い、話を進めよう。その祠に祀られている地蔵というのがこの私だ。信じられんかも知れんが今このAという奴の身体を借りて話している。自由に移動が出来ないというのは実に不便だな。気の毒だと思ったのだが近くを通ったこの男に乗り移ったのだ」。信じる信じないを抜きに僕は話を聞かされた。自称地蔵が話しを続ける。「私は当時は不治の病、奇病とされた仮性包茎を患って村からはじき者にされてしまったのだ。仮性包茎なんて伝染するでもないのにな・・・・・・まあ当時は西洋医学も入ってきたばかりでここみたいな辺境の地では何処でもけったいな言い習わしがあったもんだがな。それがよりにもよって仮性包茎だとは・・・・・・。爪弾きにされた私は自分の皮を引き千切って絶命したのだ。私の死後、不憫に思ってか祟りを恐れてか、私を模した地蔵と祠なんぞを作りよってな。それからというもの私は若者に自分のような思いをさせてはならんと仮性包茎の男が通ると誰かに乗り移って仮性包茎を治してやっているのだ」。そうかそうかありがとうございますお地蔵様。でも・・・・・・待てよ。仮性包茎は伝染もしないしそれにお地蔵様は自分の皮を引き千切って絶命したんだよな・・・・・・じゃあ僕も死ぬんじゃないか!嗚呼何てこった折角これから楽しい旅行だっていうのに死ぬなんて・・・・・・せめて最終日に殺してくれよ〜。


という夢を見ました。