日記

四国ではつい最近まで水不足が深刻だった。雨が降らないということは作物にも影響が出る。農業に携わる人は悲鳴を上げる。それでも僕は雨が降らなかった近頃の天気が好きなのだ。暑い夏が好きなのだ。「あぢぃー。あぢー」と唸りながら冷房の効き過ぎているコンビニや本屋に入る瞬間が堪らなく良い。
それなのに最近はどうだろう。雨ばかり降っていやがる。4年間履き続けているボロボロの靴に水がジュバジュバ入ってきて靴下が濡れるのが凄く厭。原付で走ると目に口に鼻に遠慮無く雨が浸入してくる。前は見えないし、涎はダラダラ出てくるし、それでも気にしていたら事故を起こしてしまいそうなのでアフリカの子どもが集ってくる蝿を気にしないように僕も雨を気にしない。雨は深夜にだけ降っていてくれ。そんな思いで僕の頭は満たされている。
しかし今日の僕は違う。嗚呼雨って何て素晴らしいのだろう。猛烈な雨を室内から眺めていると大いなる力に包まれている気さえしてくる。それはきっと今装着しているヘッドギアのお陰なのです。
私、先日趣味の一つであるネットサーフィンをしていたわけです。ネットサーフィン。リンクを辿りに辿って行くと普段はいかないようなサイトにぶち当たったのです。あれは完全にぶち当たりです。そのサイトは宇宙からの警告を私たち愚民に教えて、いえ、啓示してくれていたのであります。もうすぐ地球に危機がやってくるとは何たる驚き。驚愕。どうしようどうしよう。残された日数(自分のも地球のも)を両手足の指を数えていたところ目に入ってきたのは前述のサイト。そこには生き残る術が記されていたのです。憔悴し切った私にとってそれは乾き切ったゴビ砂漠を2週間彷徨ってようやく見つけたオアシス。命を繋ぎ止められることがわかり、両方の目からは涙がボロボロと零れていました。涙で霞んだ両の目を擦り私は生き残る術を熟読しました。内容をコピーペーストしました。以下のようなものです。

有史以来(勿論それ以前からも)人間は破壊の限りを尽くしていました。それは現在進行形で行われており、地球はもう後戻り出来ない状態にあるのです。森林伐採、温暖化、オゾンホールの拡大、人間以外の生物の減少。この星の秩序は知能を持った人類により定められ、他の生物は隷属するしかない状況なのです。ここで皆さん『平家物語』の冒頭を思い出してください。


祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらわす おごれる人も久しからず ただ春の世の夢のごとし
たけき者も遂には滅びぬ 偏に風の前の塵に同じ」


栄華を極めた者もいつかは滅びるという意味を表しています。恐竜は栄華を極めた後に絶滅しました。言い換えます。栄華を極めたから滅亡を早めたのではないでしょうか。人類は栄華を極めたのです。そして恐竜以上に他の生物を虐げてきました。こんな人類をシードマスターはどう思うでしょうか。そうです。シードマスターは実験場、箱庭である地球に破壊を加える存在を快くは思いません。消さなければならないのです。人類は消されることに決まりました。しかし時間を掛けて育み、ようやく高い知能を持った生物が生まれたのです。徹夜して99まで上げたレベルのデータが消えるのは厭ですよね。それと同じ気持ちです。地球なぞシードマスターにしてみたらドラクエ、いえ、伝説のオウガバトル程度のものなのです。人間の中でも優秀な者は残してやっても良いのではないか。そのような考えでシードマスターは人類一掃プロジェクトに取り掛かろうとしているのです。それに気付いたのが私「タァウレト・ラー・林原」なのです。紹介が遅れて申し訳ございません。
人類一掃プロジェクトに気付いた私はシードマスターにコンタクトを取ろうと躍起になりました。犯罪にも手を染めました。それぐらいやらないとシードマスターに近付くことは出来ないのです。20数年を経て私はようやくシードマスターとの交信に成功しました。私の脳にシードマスターが直接に話し掛けてきたのです。最初は疲労からくる幻聴かと思いましたが現実なのです。
シードマスターとの交信を通して人類一掃プロジェクトの全容を知った私は更に危惧を強め、『脱人会』を結成し、このサイトを立ち上げたのです。現在会員は6億人を超えました。この6億人は救われるのです。逆に言えばこの6億人以外は救われないわけです。

ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。私は1人でも多くの方を人類一掃プロジェクトの手から救いたいのです。そして確実にその日は近付いてきているのです。その日以降を生きる為にはこのサイトで購入可能なヘッドギアを身に付けることが必要になってきます。決して安い物ではありません。しかし生き残る為には悠長なことは言ってられません。人類一掃プロジェクト後の地球ではお金なんてゴミに等しくなってしまいます。国という概念が無くなってしまうのだから当然ですね。それでは何故このヘッドギアを身に付ければ生き残れるのかを説明していきましょう。
先程申しました通り、私はシードマスターとの交信が可能なのです。シードマスターの交信は特殊な脳波を出すことによってなされます。その脳波を出す為に私は20年もの年月を費やしたのです。α波、β波とは別の種類のφ波が必要なのは早々に気付いたのですが、そのφ波を出す為にやってきたことを思い出すと今でも喉の奥が苦くなります。当サイトで購入することの出来るこのヘッドギアを装着すると私と同じようにφ波を出すことが可能となり、同時にシードマスターとの交信も可能となります。
これから肉になる豚を殺す時に「止めてくれ!痛い!」と言われたらどうでしょう。多くの人が殺すのを躊躇してしまうことでしょう。そしてその豚を殺すのを止め、言葉を発さない豚を殺すことでしょう。つまり私が言いたいことはそういうことです。シードマスターも言葉の通じる存在を殺すことを躊躇うはずなのです。ヘッドギアを付けたあなた方は喋れる獣なのであります。シードマスターの躊躇を誘うことによって私たちは生き残ることが可能になるのです。ただこれは100%確実な方法ではありません。だから死んだとしても文句は言わないようにして下さい。慈悲の無いシードマスターに当たったのが運の尽きだと思って下さい。実を言うと私も確実にシードマスターと交信出来るわけではありません。φ波なんて脳波もありません。あるかも知れないけど勝手にそう名付けました。格好良いと思ったからです。最初は悪ふざけで始めたつもりがいつの間にか6億人も人が集まってしまったのです。ごめんなさいとしか言いようがありません。もう後には引けないので取り敢えず金儲けでもしてやろうとヘッドギアを売るに至ったのです。本当にごめんなさい。
ただ長いからといってこの文章を途中まで読んでヘッドギアを買ってしまうあなた方も悪いと思います。何故軽自動車が買えるようなお金を文章も読まずにポンと出してしまうのでしょう。不思議でなりません。最後に一言だけ。本当にごめんなさい。

といったものでした。コピペして初めて気が付きました。僕は騙されていたのですね。


※この日記を読んでる人は冗談がわかる人だと信じています。