山谷崖っぷち日記 (角川文庫)

山谷崖っぷち日記 (角川文庫)

 作家やジャーナリストの探訪記じゃない、実際に山谷で12年を過ごしてきた著者の内省的な文章が記されている。「私は人生というものに向いていない」。この一言が印象的。他人との人間関係を築くのが、継続させるのが苦痛。そんなものに晒されるぐらいならば人との連続した付き合いのない日雇いの建設作業員になった方が良い一生になる。こういう人間もいるのだなあ。西成に3年。山谷に12年。西成よりも山谷の方が自分には向いていた、と著者は言う。恐らく僕にも山谷の方が向いているだろう。著者のような考え方ではないからそういった生活をしようとは思わないが。
 臭いや音、仕事の取り方。ドヤで生活していく上では避けられない問題について淡々と客観的な目で語っていく。政治的な問題や社会の矛盾を吼える本ではない。堕ちてドヤに来たわけではない。自分で選んでドヤでの生活を選んだのだから矛盾なんて抱えていないだろう。著者にとっては何ら変わり映えのない普段の山谷での生活を綴った自省的文学作品だ。
って電車の中でこの本を読みながら思っていたのだけれども。このテレコを返したら山谷に行こうと考えていたのだけれども。雨のやつが降ってきやがって。またの機会に。